『行動経済学が最強の学問である』レビュー

読書

行動経済学のことは知っているだろうか?
経済学は名前の通り、人々の経済活動を調べる学問だ。
この経済学では人間は合理的な生き物であり、常に合理的な選択をし続けるという前提で物事が考えられていた。
しかしどうやら人間は思ったより合理的ではなく、非合理的な選択を繰り返す生き物だということがわかった。
これは人間が愚かであるという理由ではなく、なにか理由があるのではないか?
その疑問から、心理学と経済学をあわせた学問が生まれた。
それが題名にもある行動経済学だ。

行動経済学は比較的最近の学問だが、昨今注目を集めている。
一見不合理に思える人間の経済行動をハックすることができれば、大きな利益になるからだ。
とくにこの不合理な性質をハックしているのはアメリカのテック企業だろう。
今でいうとマグニフィセントセブン(アップル、マイクロソフト、ネットフリックス、メタなど)だ。
彼らは行動経済学で明らかになった人間の不合理な性質を利用して利益を上げている、こう筆者はいっている。
例を挙げると、ネットフリックスでドラマを見たときに自動で次回が流れる&インスタグラムのリール機能(現状維持バイアス)、iphoneの価格設定であまり人気のない128GBと512GBのものを用意したり(並列評価)などだ。

人は悩んだら「真ん中」を選ぶ。
うな重の松竹梅と同じシステム


これらは企業が公表しているわけではなく、巧みに利用され知らずに行動を制御されている。

これらの不合理なクセを知らないでいると、思わず行動をハックされる可能性がある。
しかし知ることで対策は可能だし、また実生活で利用することもできるかもしれない。

例えば職場で上司に頼み事をする際や部下のやる気を出したい時、行動経済学を利用して心理をハックすることでうまくいく可能性がある。
さらに自分のやる気さえもうまくコントロールすることもできるかもしれない。

残念ながら行動経済学は比較的最近できた学問なので、体系化がうまくされておらず学びにくい。
だがこの本は初学者が学びやすいように、人間の非合理な意思決定メカニズムを3つに分けて考え、それぞれに適応した理論を紹介してくれる。
読み物としても面白く、初めて勉強する際にオススメしたい一冊だ。

ただし注意点がある。全部鵜呑みにするのはやめよう

ここまでオススメしてきたが、注意点がある。
真意が怪しいものがいくつか含まれていることだ。

行動経済学だけでなく、心理学の研究には再現性が乏しいものが多いとされる。
再現性とは発表された実験を他の人が同様に行った場合に、同様の結果が出ることだ。
誰がやっても水は0度で凍るし、100度で沸騰する。これが再現性だ。

ただ心理学の実験においては、研究の手順に疑問が残るものも多く再現性が低いとされる。
この本でも紹介されているプライミング効果は再現性がなく、疑問視されている。
なので紹介された理論は鵜呑みにするのでなく、自分で他の本で調べるなり原著論文を読むなりしたほうがいいと思う。
この科学の再現性の危機に関して述べられた本があるので、合わせて読むことをオススメする。

行動経済学を知らないと、中毒になり搾取される可能性がある。

あと合わせてオススメする本はビッグテックが行動経済学を用いて、私達から時間を奪っていることを明らかにした本だ。
我々はスマートフォン、ゲーム、映画などに『中毒』になり、時間と注意を奪われている。
この我々の「注意」を奪う経済はアテンション・エコノミーと言われ問題になっている。
アテンション・エコノミーに関しては『行動経済学こそ最強の学問である』にもすこし書かれている。

スマホゲーム、SNSなど私たちを如何にして中毒にさせ、「注意」を奪っていくかを詳しく書いた本。
人が依存するメカニズムなど詳しくかかれているので、行動経済学の負の側面として知っておいてもいいと思う。

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